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シリア大統領選挙で4選を果たした
バッシャール・アサド大統領

令和3年(2021) 5月28日
八木正典




 5月26日に実施されたシリア大統領選挙で、ハムーダ・ダッバーグ・シリア人民議会議長は5月27日、現職バッシャール・アサド(Bashar al-Assad)が1354万0860票、得票率95.1%で4選を果たした(憲法第86条と、普通選挙法第79条の項目/ B / に基づく)と発表した。 発表によると、投票者数は1420万人、投票率は78.64%だった。シリアは2011年から内戦下にあり、選挙は国土の3分の2に当たるアサド政府支配地域と在外公館の一部で行われた。事実上アサド大統領の信任投票であり、予想どおりの結果となった。しかし、イドリブ地域等の反体制派や360万人以上が一時避難しているトルコや欧州最大のシリア人受入国独が在外選挙を許さなかったことに加え、政権側とも最低限の接触を保ってきたクルド人が選挙ボイコットを決めたことにより、国内の分裂は続く。欧米は、この選挙を茶番とみており、欧米の対シリア制裁が近い将来解除される見通しもない。こうした中、唯一の注目点は、大統領選挙後、アラブ諸国がアサド政権と寄りを戻して、シリアがアラブ連盟復帰を果たすのか否かである。


1 選挙結果

  1. 有権者数:1810万7109
  2. 国内外での投票者数:1423万9140
  3. 投票率:78.64%
  4. 各候補得票率
  1. バッシャール・アサド:1354万0860票、得票率95.1%
  2. マフムード・アハメド・マレイ:47万0276票 得票率3.3%
  3. アブドッラー・サローム・アブドッラー:21万3968票 得票率1.5%

2 欧米の反応(5か国共同声明骨子)

 我々仏、独、イタリア、英国、米国の外相は、シリアの5月26日の大統領選挙が自由でも公正でもないことを明確にしたいと考えている。 我々は、国連安全保障理事会決議2254に記載されている枠組みの外で選挙を行うというアサド政権の決定を非難し、選挙プロセスを非合法であると非難した市民社会組織やシリア反対派を含むすべてのシリア人の声を支持する。

3 今回の選挙について

  1. 国内での投票は5月26日実施
  2. 選挙は、シリア高等憲法裁判所が51人の潜在候補から承認した現バシャール・アサド大統領と他の二人の候補の合計3名の間で争われた。
    1. バッシャール・アサド現大統領
      (55歳、2014年の選挙では88%の得票率で当選)
    2. アブドッラー・サローム・アブドッラー
      (Abdallah Saloum Abdallah)前内閣副大臣(former deputy cabinet minister )
    3. マフムード・アハメド・マレイ
      (Mahmoud Ahmed Marei)野党の小政党代表
  3. 選挙立候補のための資格登録申請は4月19-28日。
  4. 出馬のためには、議員35名以上の推薦が必要
  5. 5月20日からシリア大使館で在外投票実施(締め切られている)
  6. 誰が投票したのか
    • 10年にわたる紛争によって避難を余儀なくされました。 660万人以上のシリア難民が国を逃れ、さらに670万人が国内避難民のままであると国連は推定。
    • 2014年の選挙と同様に、今年の投票は政府が管理する地域でのみ行われる。つまり、反政府勢力の最後の拠点イドリブ県とシリア北西部の周辺の反体制派支配地域に住む何百万人もの人々は、彼らがたとえ望むとしても投票することができない。トルコが支援するシリアの反体制派勢力の支配地域にある人も投票できない。
    • シリア北東部の米国が支援するSDF(シリア民主軍)と提携しているクルド人は、その支配地域内に投票箱設置を許可しておらず、SDFの政治機構シリア民主評議会(SDC)は選挙実施日から次に連絡するまでの間、境界検問所を閉鎖すると発表。
    • 在外投票が実施され、レバノンやヨルダン、クウェート、ロシア、イランなどでは、投票が可能。一方で、360万規模の大量のシリア人を受け入れているトルコやEUの中でもシリア人を多数受け入れている独は、シリア人の在外投票への参加を認めていない。


(コメント)

 高等憲法裁判所に立候補資格を認められた対抗馬2名は、いわば泡沫候補であり、アサド大統領の当選は予想通り。但し、前回の得票率が約88%であったのに比べ、95%の得票率を得たことで、政権側はアサド支配体制の正当性を内外にアピールできたと考えていると思われる。一方、欧米や反体制派やクルドが支配するSDC(下記声明参照)は、選挙ボイコットを表明し、この選挙の正当性を認めない意向。したがって、アサド大統領を巡る状況は、大統領選挙によって大きく変化することはない。国内の分裂状態も継続する。但し、新たな展開があるとすれば、アラブ諸国のアサド政権への立場の変更の可能性である。
 シリアは、2011年のアラブの春による民衆蜂起をアサド政権が弾圧したとして、アラブ連盟加盟資格を凍結されている。5月3日のフメイダン・サウジ総合諜報庁一行のダマスカス訪問は、駐ダマスカス・サウジ大使館の再開の準備と、シリアのアラブ連盟復帰の地ならしであるとみられている。フメイダン長官は、イランとシリアの両方のファイルを扱っており、シリアとの関係正常化の動きは、サウジ・イラン間の緊張緩和の動きと軌を一にするものとみられている。ラマダン明け大祭後、ファイサル・ビン・ファルハーン・アルサウード外相が代表を務めるサウジ代表団がダマスカスを訪問して大使館再開記念式典を催のかが注目されている。内戦開始後10年を経て、アサド政府軍は、軍事的には、反体制派をシリア北西部のイドリブに閉じ込め、圧倒的に有利な立場にあるが、シーザー・シリア人権保護法など米国のアサド政権トップ・要人への制裁やシリア関連のレバノンの金融機関への制裁により、復興再建が進まない状況が続いている。
 5月3日のライイ・アルヨウム記事で注目されるのは、サウジが反体制派への支援を凍結し、リヤドに本部が置かれていたシリア高等交渉委員会(HNC)閉鎖に踏み切ったことである。サウジのシリアとの関係正常化が実現すれば、アラブ世界が再びアサド大統領のシリア支配継続を事実上受け入れたことを意味する。アラブ諸国が、アサド支配体制を受け入れれば、イドリブに閉じ込められているシリアの反体制派は、これまでのトルコと湾岸アラブ諸国という2つの陣営からの支持・支援が、トルコのみに限定されることになり、追い詰められていくことになる。
 トルコは、360万人規模のシリア人難民受け入れという負荷を負い続けることになり、2016年3月のEU・トルコ合意に基づき、難民のEU流入を抑えるトルコに財政支援を継続している欧州は、アサドの首のすげ替えを、シリア再建支援に向けての前提条件とするアプローチから、アサド政権の暫定的容認へとその対応を徐々に見直す必要に迫られる可能性がある。


(参考)

SDC声明(5月24日)

 シリア民主評議会は、シリア人の生命、権利、政治的参加の目標を達成しない選挙には関与せず、国連安保理決議2254の精神に違反する選挙プロセスの促進者にはならないことを繰り返し宣言する。

 我々は、政治的道筋を築くための進展達成のために、ダマスカスの当局と交渉しようとしたが、これは達成されていない。それはコンセンサスを妨げ、会合の継続を妨げていた。そしてその目的は人権を無視して、(シリア政府の)ビジョンを課すことであった。この立場の評価から、政権内の過激派と反体制派双方ともシリア国民に対するすべての犯罪と、暫定的な統治機構の設置と安全な環境の提供ならびにあらゆる選挙の基礎となる国の新憲法制定を規定した国連安保理決議2254に基づく政治的解決のための交渉を妨害した責任がある。選挙は、透明性を有する国際的な監視の下で実施され、誰もが苦しんでいるこの厳しい危機から抜け出すための取り組みの継続を保証するものでなければならない。

 我々シリア民主評議会は、我々が大統領選挙プロセスの一部を構成したり、それに参加しないことを確認する。また、我々の立場は、確固としたものであり、国際的な決議に基づく政治的解決、被拘禁者の釈放、避難民の帰還、そして専制政治やひとつの政治勢力の独占から解放された政治的基礎の構築がなされることなく、差別や排除のない平等な立場でシリアの構成要素の権利を認める多元的な民主主義の雰囲気が支配しない中で選挙は行われるべきではないというものである。


シリア民主評議会(SDC)

https://www.almayadeen.net/news/politics/1483690/
https://www.almayadeen.net/video/1483743/
https://www.rudaw.net/

選挙結果SANA

欧米5か国外相共同声明

(以上)




















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