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アラブ4か国によるカタール封鎖1年を振り返る

寄稿:八木正典
平成30年6月5日



 本6月5日で、サウジ、UAE、バーレーン、エジプトのアラブ4か国がカタールとの外交関係を断絶し、陸海空の封鎖措置をとってから丸1年となる。この節目にあたって、封鎖の実効性を検証し、今後の見通しに触れてみたい。
アラブ4か国によるカタール封鎖

1. 封鎖の実効性

 アラブ4か国によるカタールへの行動是正要求13項目(別紙参考)は、2017年6月22日に公表された。
(1) イランとの外交関係の縮小⇒
2016年1月カタールはサウジの呼びかけに応じて、サウジのシーア派宗教指導者ニムル・アルニムル師処刑後のイラン国内のサウジ大使館・領事館が襲撃された事件に関連して、イランとの外交関係のレベルを下げていたが、カタールは2017年8月24日外交関係の完全正常化と大使をテヘランに戻す決定を発表。
 
(2) トルコ軍のカタール退去⇒
トルコは4か国の封鎖措置宣言後、直ちに議会の承認をとり、2014年のカタール・トルコ防衛協定に基づき、軍を派遣。両国軍事演習も実施しており、現在もトルコはカタールから軍を撤退していない。
 
(3) テロ支援の停止⇒
もともとカタールはテロ組織やテロリスト支援を行っていないとの立場であり、特別の変化は認められず。
 
(4) テロ組織への資金提供⇒
上記同様、テロ組織等への資金協力は行っていないとの立場である。加えて、封鎖直前の2017年5月にリヤドで立ち上げられた米国および湾岸諸国参加の対テロ資金供与防止センター設立合意にカタールは署名しているほか、2017年7月米国との間でテロ資金供与防止合意に署名した。
 
(5) 4か国および国際的に指名されたテロリストの送還⇒
特別の変化は認められず。たとえば、世界ムスリム連盟の代表で、現在カタール在住のエジプト出身の著名なイスラム学者ユースフ・カラダーウィ師は、2018年1月17日エジプトの裁判所の欠席裁判で殺人教唆の罪により終身刑を言い渡されたが、エジプトへの送還は予想されていない。
 
(6) 衛星放送局アルジャジーラとその系列局の閉鎖⇒
アルジャジーラ及びその系列局は今も活発に記事・番組を流し続けている。
 
(7) 4か国との二重国籍者のカタール国籍はく奪⇒
外交的接触がなく、二重国籍問題が話し合われた形跡はない。
 
(8) カタールの政策により、損害をうけた4か国の国民への補償⇒
損害補償は政府間で話し合うということになっており、そもそもそのような話し合いは実施されておらず、当然、今回の封鎖措置によって生じたカタール、4か国双方の国民の損害の特定もなく、補償は実施されていない。
 
(9) 2013年のリヤド合意、2014年のリヤド補完合意の実施⇒
両合意を外交的に話し合うのではなく、4か国がいきなり封鎖措置をとってきたため、両合意は棚上げ状態にある。
 
(10)カタールが支援した反体制派の全データ提供⇒
話し合いのチャネル失われていることのほか、ムスリム同胞団等への見方は、カタールとエジプトを含む4か国と差があり、データの一方からのみの提供はありえない。
 
(11)カタールが直接間接に支援する全メディアの閉鎖:
Arabi21、Rassd、Al Araby Al Jadeed、Mekameleen、Middle East Eyeのいずれもいまも活発に記事を流し続けている。
 
(12)リストの無効化:
カタールは要求を突き付けられて10日以内にどの項目にも応じておらず、4か国設定の期限が過ぎた。それゆえ6月22日の要求リストは、形式上は存在しないという考え方がなりたつものの、4か国の要求の中身は今も変わっていないとみられる。
 
(13)合意の履行とモニタリング:
カタールが全面降伏して、さらに12年間合意の履行とモニタリングが続くという設定になっているが、そもそもカタール側が受諾していないため、合意の履行もない。


2.4か国の思惑と誤算、カタールの抵抗

(1)4か国の思惑
●4か国がいきなりカタールとの外交関係を断絶したのみならず、陸海空の封鎖というアラブ同胞に対しては通常考えられない措置をとったのかはいまだ真相は明らかになっていない。しかし、上述の13項目をすべて受諾するということは、カタール首長家の全面降伏、全面服従を意味し、カタールが一方的に4か国に戦争を仕掛けて全面敗北したのでもなければおよそ考えられない。これは、タミーム首長、および父親のハマド前首長を頂点とする現カタール指導部に反発する勢力の蜂起を期待し、カタール指導部弱体化を狙って経済的に締め付けることを実行したものとしか合理的な説明がつきにくい。今回の封鎖の実行が、湾岸3か国だけであれば、インパクトは乏しかったが、アラブで最大の人口を有し、アラブ団結の象徴であるアラブ連盟の本部がおかれたエジプトが封鎖に加わった1ことが、解決に向けた取り組みを困難にしているといえる。エジプトは、カタールの同胞団支援や事実上の軍部のクーデターによるムルシー大統領解任を批判するカタール政府とカタールが資金提供するメディア報道に強いフラストレーションを抱いており、また、経済的にサウジやUAEの支援を必要とする立場から、サウジの誘いに応じて封鎖に同調したものとみられる。
 
(2)4か国の誤算
●おそらく4か国は、陸海空の封鎖で早晩カタールは干上がってしまい、要求に応じるか、カタール内部で体制への圧力が強まると考えたとみられる。しかし、ムスリム同胞団に対しては同情的で、かつ、エジプトやUAEとは関係が冷却しているトルコが、間髪をいれずに軍隊をカタールに派遣したこと、カタールを陸の孤島にしないため、トルコとイランがカタールを往来する民間航空機の領空通過を認め、サウジやUAE領空から排除されたカタール航空の運航を歓迎したこと、食料品や医薬品等の緊急供給にも応じ、カタール国内住民のパニックが起きないようサポートしたことが心理的・物理的に効果が大きかった。また、米国トランプ大統領と側近は、トランプ大統領が直前の2017年5月下旬にサウジを訪問し、サウジ、UAE等の封鎖措置実施を聞かされていた可能性が強く、反対はしなかったとみられるが、他方で、カタールには、中東・中央アジアを管轄する米中央軍の前線基地であるウデイド空軍基地2におかれ、それはカタールから無料での土地やサービスの提供をうけ、かつ完全なる不可侵を享受しており、米国防総省もウデイド空軍基地からの近隣諸国への米軍基地の移転には反対3であり、米軍、トルコ軍が駐留する中でサウジ等が軍事的圧力をカタールにかけることには限界があった4と考えられる。
 
(3)カタールの抵抗
●断交にうけて、湾岸協力理事会の中で、オマーンとともにカタールと断交していないクウェートのサバーハ首長が調停に乗り出した。また、エクソン・モビルCEO時代にカタールともビジネス関係にあったティラーソン国務長官(当時)も事態の鎮静化のために動き出したが、4か国はカタールに対する要求を軟化させることはなく、カタールもまた要求に応じることはなかった。カタールは、世界有数の天然ガス生産・輸出国として知られ、ガス供給契約は通常長期契約となるため、4か国の封鎖措置にもかかわらず、カタールと取引のある欧州やアジア諸国は契約を維持し、カタールも保有するソブリン・ウエルス・ファンドの効果もあり、カタール経済は損失を被り5 ながらも、決定的に落ち込むことはなかった。5月14日に発表されたIMFの経済見通しでも、2017年のカタールの実質経済成長率は2.2%と、サウジのマイナス0.7%、UAEの0.5%と比較しても上回っており、また、原油生産の規模はほとんど変わらないものの、カタールのエネルギー輸出の主力の天然ガス生産実績は、2015年、2016年の実績を上回っており、4か国による封鎖措置にもかかわらず、堅調ぶりを示している。カタールのタミーム首長は、封鎖4か国とは対話には応じる姿勢を示しつつ、主権を放棄したに等しい要求に服従することはないとしている。最近、サウジのムハンマド・ビン・サルマン(通称MbS)皇太子やジュベイル外相は、カタール封鎖問題をしきりに、取るに足らない小さな問題と称しているが、そう発言していること自体解決の糸口がまったく見いだせていないことを示唆している。


3.今後の見通し

(1)この封鎖状況は、サウジやエジプトの方針変更でもないかぎり、当分の間続くとみられている。2022年には、FIFAサッカーワールドカップがカタールの首都ドーハで開催される。湾岸諸国にもサッカーファンが多く、サウジやUAEは開催地の変更を働きかけてきたものとみられるが、現在のところ、カタール開催が危ぶまれる状況ではない。一方で、その時点まで問題が解決しているかと問われれば決して楽観できない状況にある。カタールがスポンサーになっている仏の名門サッカーチーム、サンジェルマンには昨年8月ネイマール選手が移籍6した。ロシアでのワールドカップが6月14日から開催されるが、beINというカタールに本拠をおくスポーツ番組会社7がワールドカップの独占放映権を握っており、カタールはスポーツの世界でも、封鎖4か国に一歩も引きさがる姿勢を示していない。

(2)カタールは、 封鎖後も4か国住民を強制退去させる措置はとらず、また、ドルフィン・プロジェクト8の下でのUAEへの天然ガス供給を止めていない。さらに本年3月には、1965年に発見され、75年に生産が開始された両国境界にまたがる日本企業が操業するブンドク油田の利権更新が発表された。この他、2017年12月サバーハ首長がホストしてクウェートで開催されたGCC首脳会議には、タミーム首長が出席9し、4月にダハラーンでのアラブ首脳会議でもカタール代表の出席は認められた。また、3月から4月にかけてサウジ東岸で実施された「湾岸の盾1」軍事演習には、カタールも招待され、出席した。これらは、関係修復の糸口を残しておきたいとの関係国の配慮とも考えられる。

(3)4か国のカタール封鎖措置は、必然的にカタールとイランとの接近を促し10、サウジにとっての現在の最大の外交的懸案であるイラン封鎖にほころびを招く結果となっている。さらに、本年6月サルマン・サウジ国王は、マクロン仏大統領への書簡で、カタールがロシア製対空防衛システムS-400を導入しようとしているとして、その場合は軍事攻撃も辞さないとの警告を発した。サウジにとって、カタールをGCCの枠外に追放することは、自国の安全にも深刻な脅威になりうることを物語っており、湾岸地域の安全と安定、経済の一体化のいずれの観点からも利益のない封鎖措置の解除にむけての話し合いの橋渡し役の登場が期待される。この関連で、「湾岸危機」を話し合うための、米・GCCサミット開催の観測が高まったが、クウェート外相は、まだ機が熟しておらず、9月に開催される見通しであると述べた。これが実現し、高いレベルでの参加が得られれば、一定の進展が期待される。 

  







別紙  

1.カタールへの行動是正要求リスト(2017年6月22日)
1)イランとの外交関係を縮小し、カタールでのイラン外交使節付属機関を閉鎖し、イランの革命ガード隊員と関係者をカタール領内から追放する。イランとの商業関係は、米国と国際社会からイランに課されている制裁措置の範囲を逸脱してはならず、湾岸協力理事会の安全保障を危うくしない範囲で行われなければいけない。イランとのあらゆる軍事・情報協力関係を断つ。

2)現在建設中のトルコ軍基地を直ちに閉鎖し、カタール領内のトルコとの軍事協力を停止する。

3)ムスリム同胞団、ISIL、アルカーイダ、シャーム解放(旧ヌスラ戦線)、レバノンのヒズボラなど、すべての "テロリスト、宗派、イデオロギー"と結びついている組織との関係を断つ。サウジアラビア、バーレーン、UAE、エジプトが発表したテロリスト・リストに従って、これらの団体をテログループに分類し、正式に宣言し、今後このリストの更新に同意する。

4)テロ・過激派に属する個人、団体または組織に対するカタールからの資金提供をすべて停止する。サウジアラビア、UAE、エジプト、バーレーンの4か国ならびに米国および国際的にテロリストとして指定された者も同様である。

5)サウジアラビア、UAE、エジプト、バーレーンならびに米国、国際的から指定されたテロリスト、お尋ね者をこれらの4か国あるいは米国等に引き渡す。引き渡しまでの間、関係者を拘束し、動産、不動産資産を凍結する。そしてその他の分子も将来二度と庇護せず、お尋ね者の情報提供にコミットし、彼らの移動、居住、財産に関する情報を提供する。そして断交後カタールが拘束した者を出身国に引き渡す。

6)アルジャジーラとその系列局を閉鎖する。

7)主権国の内政への干渉を終わらせる。サウジアラビア、UAE、エジプト、バーレーンの4か国の国籍を有している者に対してカタール国籍を与えない。過去にこれら4か国の法令に違反した者に対してカタールが行った国籍付与を見直す。これら4か国国民に国籍を与えたか、あるいは動員したすべてのケースのリストを提出する。これら4か国の反体制派分子との接触を断ち、カタールとこれらの分子との過去の協力に関するあらゆるファイルを物証とともに提出する。

8)近年カタールの政策に起因して4か国の国民に発生した人命その他の財政的損失の賠償と補償を行う。そのメカニズムはカタールとの合意で決定される。

9)カタールはその軍事、政治、社会、経済および治安政策を周辺の湾岸諸国やアラブ諸国のそれと調和させ、湾岸諸国やアラブの民族的安全を保障する。そして、2013年のリヤド合意、ならびに2014年のリヤド補完合意を履行する。

10)カタールは支援を行った反体制派に関するデータベースを提出する。そしてこれまで彼らに対して施したすべての支援を明らかにする。

11)Arabi21、Rassd、Al Araby Al Jadeed、Mekameleen、Middle East Eyeなど、カタールが直接・間接に資金を提供するすべてのメディアを閉鎖する。

12)リストがカタールに提出されて10日以内にすべての要求に同意しない場合、リストが無効になる。

13)この合意の目的とメカニズムは明白であり、1年目は毎月1回、2年目は3か月ごと、それに続く10年間は年1回履行状況が報告される。

2. IMF経済見通し(出所:IMFエコノミック・アウトルック2018年5月14日公表)
                                                                                                           
表 1. 実質 GDP成長率
(毎年の変化%)
平均予想予想
2000–1420152016201720182019
バーレーンBahrain 5.12.93.23.23.02.3
カタールQatar 11.2 3.62.22.12.62.7
サウジアラビアSaudi Arabia 4.14.11.7-0.71.71.9
UAE United Arab Emirates 4.83.83.00.52.03.0
エジプト Egypt 4.34.44.34.25.25.5
湾岸協力理事会GCC 4.93.62.1-0.21.92.6
アラブ世界Arab World 5.13.23.11.73.03.5
出典:各国統計、IMFスタッフ推定・予想.
カタールの2010年からのデータは最近発行された2013年の価格をベースにした国家統計に基づく。それ以前は、ヘイバー分析による。.

                                                                                                                                                                     
表2.原油とガスの産出
(百万バレル/日)
平均予想予想
2000–1420152016201720182019
 
原油生産
バーレーンBahrain0.200.200.200.200.200.20
カタールQatar0.740.640.650.610.610.62
サウジアラビアSaudi Arabia8.7810.1910.4610.0110.0510.15
UAE United Arab Emirates2.422.883.032.932.933.02
 
天然ガス生産
(参考)アルジェリアAlgeria1.501.481.701.711.751.79
バーレーンBahrain0.260.370.370.370.380.38
(参考)イランIran2.274.064.535.035.325.57
カタールQatar1.883.933.974.174.244.29
サウジアラビアSaudi Arabia1.592.012.102.202.252.33
UAE United Arab Emirates0.841.021.051.051.051.05





1 湾岸3か国とカタールとの軋轢は、2014年3月に顕在化し、3か国はドーハ駐在大使をそれぞれ引き揚げた。同年11月にリヤド合意が結ばれ、12月には、ドーハでGCCサミットが開催された。3か国は、カタールがこの合意を履行していないとの立場であり、2017年6月の封鎖において、サウジは、エジプトを巻き込むことに成功した。

2 ウデイド基地には、米軍だけでなく、英軍、仏軍の使用も認められ、最近ではNATO軍にも使用を認める合意が結ばれている。

3 米中央軍は3月26日ツイッターで、米軍がトルコのインジルリック基地とカタールのウデイド基地から移動するとの報告は間違っており、何の利益もないと糾弾。

4 4月24日ジュベイル・サウジ外相は、カタールは米国のシリア駐留費用を負担し、かつ軍隊を派遣しないといけないと述べた後、カタールは米国の庇護がなくなれば、1週間ももたないと発言。

5 ブルームバーグの推定では、カタールは封鎖措置により、430億ドルの損失を被ったとされえる。また、カタール航空も金額は発表していないが、大きな損失を被ったとしている。

6 バルセロナからの契約解除金(移籍金)は2億2200万ユーロといわれている。他方で、ブラジル出身のネイマール選手自身は、サンジェルマンになじめず、レアル・マドリード移籍を希望しているとも伝えられている。

7 6月2日、beIN社の番組がサウジに拠点をおくテレビ会社beoutQに乗っ取られたとして、UAEにおけるのbeIN放映が一時遮断されるという事態も発生した。

8 UAEも契約の破棄を申し出ていないとされる。同プロジェクトは、カタールのラスラファンで生産した天然ガスをパイプラインを通じて、UAE、オマーンに送付するUAEとカタール間の経済協力の象徴的事業。2007年7月ガス送付が開始されており、2016年10月カタールとUAEのドルフィン・エナジーとの間で、長期の追加的ガス供給契約が交わされている。

9 同会合は12月5日、6日の両日開催される予定であったが、サウジ、UAE、バーレーンは首脳級を派遣せず、議論も5日のみで終了した。

10 カタールは、2018年4月29日イラン人のドーハ空港到着時の空港での入国査証付与を認めると発表した。




















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