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湾岸情勢



中東イスラム世界 社会統合研究会

アラビア半島周辺海域でのイランとイスラエルの緊張拡大

令和3年(2021年)3月22日
八木正典



 3月10日、シリアのラタキア港近くでイランが所有するコンテナ船「シャフレ・コルド(Shahr-E-Kord)」が爆発被害を受け、小規模な火災が発生した。負傷者は出なかった模様。船がバンダル・アッバース港からスエズ運河を経由してラタキアの停泊地点に到着したとき、貨物甲板上のコンテナで火災が発生した(下記画像参照)。2月25日には、オマーン湾でイスラエルの自動車運搬船「MVヘリオス・レイ」が爆発被害を受けていた(参考1参照)。イランの海運会社のスポークスマンであるアリ・キャシアン氏は、シャフレ・コルドの貨物船が「攻撃された」ことを確認した。「シャフレ・コルド」は2019年7月25日に紅海南部を航行中に被害を受けており(参考2参照)、今回の爆発で、約2年間で2回目の被害を受けたことになる。周辺海域では、イランの船舶の被害が多発しているとされる。
(画像はfleetmon.comより引用)


破損個所
(画像はislamtimes.orgより引用)




(画像はpbs.twimg.comより引用)



(画像はAurora Intelより引用)



(画像はpbs.twimg.comより引用)



位置 シャフレ・コルドの航行追跡図
(シリア・ラタキア沖まで)
(画像はtimesofisrael.comより引用。
記事はこちら
 (コメント)今回のイラン船舶の被害ならびに2月25日に発生したイスラエル船舶の被害も爆発がなぜ発生したのか真相ははっきりしていない。しかし、イスラエル船舶の爆発被害の直後、ネタニヤフ首相は、イランの犯行であると非難した。ガンツ国防相もイランの犯行であるとの見方を明らかにしていた。被害発生直後にイスラエルは、UAEに専門家や治安チームを派遣して、被害状況とそれが何によって引き起こされたのかの調査を行っている。3月10日にシリアのラタキア沖で発生したイラン・コンテナ船の被害は、爆弾攻撃を受けたものであれば、イスラエルの報復によるものと考えるのが自然である。破損個所の画像を見る限り、爆発物によるものと考えられる。イスラエル側は、攻撃実行の有無を明らかにしていないが、このような事件については、イスラエルは通常、責任を明確にしない。2019年にフジャイラ沖やオマーン湾でタンカー数隻の爆発事件が起きており、イランの関与が疑われたが、イラン側は否定し、真相は明らかになっていない。一方、イランの船舶も多数、紅海航行中に被害を受けていることが明らかになってきた(参考1,3参照)。イラン側の船舶がこれまで被害を受けたのは紅海を北上し、石油やその他の物資を主にシリアに向けて運搬する途中であったことから、イランと敵対するサウジやイランの反体制派MEK/MKO(ムジャーヒディーン・ハルク)の関与も疑われていたが、今回の事件により、一連のイラン船舶の被害はイスラエルによるものとの見方が強まったといえる。ウオールストリート・ジャーナルは、3月11日の記事で、イスラエルはシリアにイラン産原油などを輸送する船舶を標的として水中機雷などを利用して12回以上の攻撃を行ってきたと報じている。また、ロイターは、海上保安当局の情報として、「シャフレ・コルド」以外に3隻のイラン船舶が最近数週間で被害を受けていると報じている。アラビア半島周辺海域では、米国のイニシアティブで、船舶の安全航行を守るための有志連合とよばれる国際海事安全機構International Maritime Security Construct (IMSC)が2019年11月7日に立ち上がっているが、イスラエルは、有志連合には加わっていない。しかし、イスラエルは、UAEとの国交正常化後、イエメンのソコトラ島にUAEと共同の軍事観測所を設けようとしていると報じられており、ホルムズ海峡のみならず、紅海入り口のバーブ・アルマンデブ海峡を通過するイラン船舶への監視を強化しようとしている。イランに対するイスラエルが主導したとみられる事件は、2020年7月のナタンツ遠心分離施設での火災や同年11月のイランの核科学者ファクリザデ氏の暗殺に象徴されるとおり、頻発しており、イスラエルのネタニヤフ政権は、自国の安全保障に関わるとみなす脅威については、国内外を問わず、単独でも行動をためらわないとの姿勢を強調している。



(イスラエルの自動車運搬船
「MVヘリオス・レイ」)






(イスラエル船が被害を受けたとみられる位置)



(写真はbbc.comより引用)





(写真はneptunep2pgroup.comより引用)
(参考1)イスラエル船舶「MVヘリオス・レイ」の爆発被害。
 2月25日夜、サウジアラビアのダンマーム港から出航したイスラエル人が所有する自動車運搬船「MVヘリオス・レイ」(バハマ籍船)が、シンガポールに向かう途中のオマーン湾で2回の爆発被害を受けた。乗組員には被害がなかった。この被害はこの地域でイスラエル船舶が受けたと報告された最初のケースであり、2019年に石油タンカーや貨物船が同様の被害を受けていた。事件発生地点は、2019年6月13日に日本企業所有のタンカーほか1隻が被害を受けた地域に非常に近い。

 2月28日に、被害の検査と修復を目的として、アラブ首長国連邦のドバイのラーシド港に到着した。イスラエル(カン)ラジオは船主のラミ・ウンガー氏の言葉を引用し、「被害は直径約1.5メートルの2つの穴であり、これがロケット弾によるものなのか、それとも船体への装着機雷によるものなのかははっきりしていない、と報じた。米国の防衛当局者は、攻撃が船の側面に穴をあけたと述べた。

 イスラエルの閣僚YoavGalantは、船体の写真は、損傷が「明らかに夜間に行われた海軍の作戦で、船の外壁に装着した機雷」の結果であることを物語っている。攻撃はイランの海岸の近くで行われ、加害者は公開されているデータベースから、この船が、イスラエルが所有していることを知っていたであろうとYnetTVに語った。

 イスラエル政府は、イランが関与していると非難した。ネタニヤフ首相は、イランをイスラエルの最大の敵と表現し、イスラエルがこれに対処し、あらゆる面でイランを叩く用意があり、これからもそうし続けると警告した。ネタニヤフ首相はさらに、(イランとの)合意の有無にかかわらず、イスラエルがイランに核兵器と核能力を保有することを許さないと述べ、2週間前に行われたバイデン米国大統領との電話会談でこの立場を知らせたこと示唆した。ベニー・ガンツ・イスラエル国防相は2月27日、イスラエル船舶への攻撃はイランが責任を負っていたと述べた。

 一方、イラン外務省報道官サイード・ハティーブザデ(Saeed Khatibzadeh)は、イスラエル船についてのネタニヤフ首相の非難には根拠がないと否定した。報道官はイスラエルがこの地域の安全を不安定にしようとしていると非難し、「ペルシャ湾」の安全がイランにとって重要であると強調した。報道官は、イスラエルの行動は疑念に満ちており、イランはあらゆる脅威に厳密かつ正確に対応すると警告した。

 ロイターは、イスラエルの閣僚発言を引用して、イランがオマーン湾でイスラエルの船を攻撃するために機雷を使用したと報じた。一方、イスラエルの新聞「イディオト・アハロノト」のウェブサイトは、イスラエルの専門家と治安部隊が攻撃の状況を調査するためにアブダビに飛んだと報じた。イスラエルの専門家は、船を検査し、船が受けた損害と、ミサイルまたは機雷の標的にされたかどうかを判断すると報じた。


(参考2)2019年にも被害を受けていたイランのコンテナ船シャフレ・コルド
シャフレ・コルドは紅海南部を航行中の2019年7月25日に上甲板で火災に見舞われた。たまたま近くにあったタグボートMISSISSIPPIの助けを借りて、乗組員が消火した。2019年7月20日にバンダル・アッバース港を出発し、スエズ運河経由シリアに向かう予定であったとみられている。火災事故の後、船は航海を中断し、7月27日までその地域にととどまった後、バンダル・アッバースに向け、オマーン沖を通過して、引き返すこととなった。



(ホルムズ海峡付近を航行中に爆発損傷)



(日本の国華産業保有のコクカ・カレイジャスの損傷部分)



(イラン・タンカー「サビティ」損傷部分)
(参考3) 2019年に発生したアラビア半島周辺海域でのタンカー等の爆発損傷事件

1.5月12日早朝、UAEフジャイラ沖でのタンカー等4隻爆発損傷(爆発損傷した船舶名)
 (1)サウジの石油タンカー アルマルズーカ(Al-Marzoqah)(損傷は停泊中)
(2)サウジの石油タンカー アムジャドAmjad (同上)
(3)ノールウェーの石油タンカー アンドレー・ビクトリー(Andrea Victory)(同上)
(4)UAEバンカー・バージ給油船 マイケル(Micheal)(損傷は航行中?)

 
2.2019年6月13日、オマーン湾でのタンカー被弾
(1)安倍総理のハメネイ最高指導者との会談当日の 6月13日早朝、日本タンカー「コクカ・カレイジャス」(船籍:パナマ)がホルムズ海峡付近を航行中に爆発損傷
(2)同日ノールウェー所有(船籍:マーシャル諸島)のタンカー「フロント・アルタイル」ホルムズ海峡付近を航行中に爆発損傷

 
3.ジッダ沖でのイラン・タンカー事件/事故
(1)4月30日 「ハッピネス(Happiness)1」号 エンジン・ルームにトラブル発生。ジッダ港に入り、修理。7月にジッダから出航。
(2)7月25日 イランのコンテナ船「シャフレ・コルド」紅海南部を航行中に甲板部分に火災発生。バンダル・アッバース港に引き返した。
(3)8月20日 「ヘルム(Helm)」号 130万バレルの原油を積載し、スエズ運河に向けて北上中にメカニカル・トラブル発生。トラブル発生後アデン湾に引き返した。
(4)10月11日 紅海を航行中のイラン・タンカー「サビティ(SABITI)」がジッダ沖60マイルの海上で2回に亘って爆発損傷被害を受けたと報告。



(以上)






















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