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イラン政府による凍結イラン資産の解放に向けての圧力強化

2021年3月29日
八木正典



 イラン政府によるイラン資産を国内金融機関で凍結している諸外国に対する圧力が強化されている。イラク、韓国、オマーンについては、凍結資産の一部30億ドル分の解除をバイデン政権が了承した模様。日本も15億ドルの凍結資産を抱えており、イラン中央銀行総裁と在テヘランの日本大使が最近接触を開始した模様。

1.イラク
  イラン当局によると、イラクは、イランにガスと電力輸入代金60億ドル以上の負債を負っている。
  3月6日、ローハニ大統領は、カーディミイラク首相に対して、凍結資産の早期解放を要請した。
  イランは、イラク政府に未払いのガス代金を清算するよう警告し、2020年12月にイラクへの一時ガスの輸送量を減少させた。イラクは長年債務の一部を支払ってきたが、イランの期待より返済ははるかに遅れている。ヘマティ中銀総裁は昨年10月、イラクがイランによる基本的な商品の購入のために凍結資金を解放することに同意したと述べていた。
  3月7日、ホセイニ・イラン・イラク共同商業会議所事務局長は、イラク首相の上級顧問が、イラクでイランの凍結資産の一部が解放され、人道的物資をイランに送るために資産が使用されることを確認し、これらの資産解放の結果として、すでにトウモロコシの出荷がイラクからイランに行われた、と発言。
  2月下旬、テヘランでの会議で、イランのヘマティ中央銀行総裁とイラク国営貿易銀行チャラビ総裁が、イランの凍結資産を引き渡す方法を検討した。両国間では、このプロセスを促進するための金融チャネル設置に向けた取り組みがなされている。
  https://www.farsnews.ir/en/news/13991217000689/Official-Ira-Oman-S-Krea-Unblck-Iran%E2%80%99s-Asses

2.韓国
  韓国は70億ドルのイラン資産を国内に凍結させている。
  KBSならびにイラン国営通信などによると、韓国は、トランプ政権下で、凍結させていたイラン資産の一部を、自国内で製造しているアストラゼネカ・ワクチンのイランへの供給を通じて返済することで合意した模様。韓国は、イラン産原油の主要輸入国の一つであったが、トランプ政権が宣言した2019年5月以降のイラン産原油輸入による第三国への金融制裁を回避するため、イランに支払うべき代金を韓国の銀行内に凍結していた。
  トランプ政権下でも、医薬品や人道的物資のイランへの輸出は、禁止されてはいなかったが、事実上、貿易停止状態に置かれていた。韓国側は、事前に米政府に連絡をとり、凍結イラン資産の一部解除につき、米国の了承を得ていた趣き。
  本年1月、韓国のケミカル・タンカーが、イランのIRGCに拿捕(下記URL参照)され、2月上旬に船員の一部は解放されたが、船と船長は解放されず、イラン韓国間の外交問題に発展していた。イランは、ケミカル・タンカーをいわば人質にとったともいえる状況にあった。しかし、4月に入って、イランと欧米とのイラン核合意を巡る協議再開と並行して、進展が見られた。韓国首相としては44年ぶりの丁世均(チョン・セギュン)首相のイラン訪問を直前に控え、4月9日、韓国外務省は、タンカー「Hankuk Chemi 」が解放されたことを確認した。
  https://blog.canpan.info/meis/monthly/202101/1
  (参考1)イランは韓国からアストロゼネカ・ワクチン調達
   イランは韓国で製造されるアストラゼネカ(AstraZenaca)ワクチンを300万回分以上輸入する予定である。
   3月8日のイラン国営通信社IRNAによると、イランの保健省は、世界保健機関が支援する世界的なワクチン供給プロジェクトCOVAXファシリティを通じて、今年韓国からアストラゼネカのワクチンを310万回分輸入すると発表した。先月、同省は、イランが今年、COVAXファシリティを通じてアストラゼネカ・ワクチンを420万回分を輸入すると発表していた。
   アストラゼネカとオックスフォード大学が共同で開発したワクチンは、韓国のSKBioscienceを含む世界中の12のサイトで製造されている。
   イラン保健省は、韓国の食品医薬品安全省がアストラゼネカ・ワクチンの安全性を検証したと述べた。 先月、韓国が製造したワクチンの使用について緊急許可を与えた。
  http://world.kbs.co.kr/service/news_view.htm?lang=e&Seq_Code=160020
  (参考2)韓国の銀行に凍結されていたイラン資産解放の動き
   イラン中央銀行によると、韓国のイランに対する債務総額は70億ドル。トランプ(前)大統領が包括的共同行動計画(JCPOA)から撤退した後、2018年以降、米国がイランに制裁を課した後、韓国はソウルの銀行とともに70億ドルのイラン資産を凍結した。
   イランは、米国との交渉を行うことなく、食品や医薬品を含む制裁下にない商品をバーター(物々交換)メカニズムを利用することができる。
   イラン保健省は韓国にCOVID-19のワクチンを含む医薬品のリストを提示し、リストは韓国が債務を支払うために使用できると付け加えた。
   韓国外交部は、資金の一部を解放することで米政府と合意に達したと発表していた。韓国の外交部とイラン中央銀行の当局者は、米国財務省の承認後、金額とその送金メカニズムに関する合意を発表した。
   ヘマティ・イラン中央銀行総裁によると、合意に基づいて、最初に10億ドルが解放され、その一部は、イランの延滞金1,600万ドルを手当てするために国連に支払われることになる。
   さらに、イランと韓国は、トランプ政権の承認を受けて2020年に設立されたスイス人道貿易協定(SHTA)が提供するチャネルを通じて、さらに多くの資金を移転することに合意した。
  (参考)
     SHTAとは:SHTAは、スイス人道貿易協定(the Swiss Humanitarian Trade Arrangement)の略で、医薬品や基礎食品などの人道的物資を、イラン政府が悪用することを回避して、イランの人々に届ける仕組み。スイスを拠点とする食品、製薬、医療セクターの輸出業者と商社がスイスの銀行との安全な支払いチャネルを確保し、それを通じてイランへの輸出の支払いが保証されるように取り組んでいる。このメカニズムは、米国財務省がイラン中央銀行の海外資源の一部を基本的な商品や医薬品の輸入に使用することへの制裁の例外を認めた後、2020年1月に設定された。スイスのBCP銀行はSHTA取引の処理を許可されている。 2つのイランの銀行、すなわちサマン銀行(Saman Bank)と中東銀行(Middle East Bank)も関与している。

3.日本
  日本国内のイラン凍結資産は、約15億ドルと推定される。 日本は米国による対イラン制裁前のイラン産原油の主要な買い手の1つであった。ザリーフ外相は、2020年10月に日本のカウンターパートに、イランは日本が保有する外貨資源を利用できるべきであると述べ、医薬品や食料の購入を妨げる制限を非難していた。
  2月22日、ヘマティ中銀総裁は求めに応じて相川一俊敏駐テヘラン日本大使と会い、15億ドル相当のイランの資産を解放する方法について話し合った。中央銀行がブロックされた資金を利用できる1つの方法として、日本側は、資金の一部を使用してCovid-19ワクチンをイランに輸入することを提案したとされる。


(以上)




















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