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ロシアのウクライナ侵攻に伴い様々な課題が浮上している中で、トルコの動向が注目を集めている。ロシアとウクライナの直接会談、フィンランドとノルウェーのNATO加盟、ウクライナ産穀物の輸出の調整をめぐる交渉など、いずれのケースもトルコが大きな存在感を見せている。また、長期化するシリア紛争やナゴルノ・カラバフ紛争(2020年)にも深く関与していることは言うまでもない。いずれもトルコの近隣地域での出来事であり、好むと好まずとにかかわらず関与せざるを得ないとも言えよう。 こうした活動の陰で目立たなくなっているものの、トルコはアジアにも目を向けている。2019年、チャウシュオール外相はアジア大陸との関係を計画的かつ集中的に発展させることを目標とする ”Yeniden Asya”(「アジア・アニュー」,”Asia Anew”)イニシアチブを開始すると発表した。この中でトルコのルーツがアジアとヨーロッパの双方にあると述べるなど、アジアへの親近感を強調してみせた。そしてアジアとの協力関係を進めるにあたっては教育、防衛産業、投資、貿易、技術、文化、政治対話といった幅広い分野を視野に入れているとした1。 アジアの中では中華人民共和国が先頭を走っているようだ。2022年1~6月のデータによれば、トルコの輸入相手国1位はロシアで全輸入額の15.6%、中国はこれに次ぐ2位で11.3%を占める2。またイスタンブルから西安まで6,832㎞を結んだ鉄道が運行し、今後この鉄道網はヨーロッパ各都市へと延伸する予定でありさらなる利用と貿易量の増大が見込まれる。経済交流の陰で、ウイグル人問題も棚上げにされている。 他方、トルコと日本はエルトゥールル号遭難事件やトルコ航空による邦人救出といった出来事を通じて結ばれた絆があり、日本の研究所によるカマン・カレホユック遺跡の長期にわたる発掘事業も知られている3。近年ではイスタンブルの海底トンネルやアジアとヨーロッパを結ぶ第2ボスポラス大橋などの建設協力を日本企業が行なっており、文化、経済分野での関係は前進している。これに比べて外交分野は表面的な関係にとどまっている印象がぬぐえない。 しかし2022年6月に「トルコ海洋協議」が開催され、外交分野でも関係深化の兆しが見えてきたようだ。この会議では、東シナ海・南シナ海及びトルコ周辺の海域の情勢を含む、海洋に関する様々な課題について意見を交換、自由で開かれたインド太平洋政策とアジア・アニューとの協力の可能性について議論、そして今後も定期的に開催していくことが決められた4。 現時点でトルコはリラ安に見舞われており経済見通しは明るいとは言い難い。また人権状況をはじめとして政治、社会的課題も多い。建国100周年を迎える2023年には選挙が予定されており、現エルドアン政権が継続するかどうか予断は許さない。欧米との関係も一時よりは改善しているものの、多くの課題を抱えたままである。一方、日本経済も長期にわたり停滞したままであり、社会全体にコロナ禍の影響が重くのしかかり閉塞感が漂う。しかし2国間に大きな政治・外交問題はない。トルコにとって外交的孤立を避けるためにも、日本と強固な関係を築くことは無駄ではない。日本にとって親日国トルコは絶好の戦略的パートナーとなりうる。アジア地域は常に不安定であり、特に日本を囲む海域において脅威が増している現在、信頼できるパートナーは不可欠である。何より、世界各国を相手に巧みな駆け引きを展開するトルコ外交を見習う機会でもある。このアジア・アニューを有効に活用して、日本とトルコの関係がさらに中身のあるものとなることを期待したい。
(以上)
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