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2023年2月6日にトルコ南部を震源とする地震が発生してから10日以上が経過したが、トルコメディアはAsrın Felaketi(世紀の大惨事)という表現を用いて連日、現地の様子を詳細に報道している。 トルコは日本と同様、地震の多い国であるがその地質の構造を、現地調査を実施した経験を持つ元地質調査所研究員は次のように解説する。地震は、地殻内のストレス(力)に耐え切れなくなって岩石/岩盤内部に破壊(断層や急激な変形)が生じるときに発生する。トルコの周辺には、北から南へ、ユーラシアプレート、アナトリアプレート、アラビアプレートが識別されていて、これらのプレートの相対的な動きによって各プレート境界部で地震が生じる。具体的には、アラビアプレートがユーラシアプレートに向かって北進するため、間に挟まれたアナトリアプレートが西に押し出されることで地震が発生する、というのがトルコにおける地震発生に関する通説となっている。たとえれば、上下から押されたピーナツが横に飛び出すイメージである1。 東北大学の遠田晋次教授は、今回の地震は陸上で発生した世界最大の地震の1つであるとし、大きな被害が出たのは地震のマグニチュードに加えて地表に震源地が近かったためであり、地震のエネルギー量は1995年の阪神・淡路大震災や2016年の熊本地震の10倍以上と分析している2。 上述のとおり、地質構造や地震エネルギー量そのものが大きかったために「大惨事」となったことは確かであるが、建物の脆弱性や違法建築の横行も被害を大きくした一因だと指摘されている。 イギリスの専門家は、甚大な被害は地震ではなく見掛け倒しの建物によって起こされたとさえ述べている3。 地震発生後の映像を見ると、建物が崩れ落ちて巨大ながれきの山となっている場所が多い。こうした崩壊の様子から、「パンケーキクラッシュ」が起きて被害が拡大した可能性があると、東京大学の楠浩一教授は指摘する。パンケーキクラッシュとは、柱が瞬時に強度を失い建物全体が真下に折り重なるように崩れ落ちる現象のことで、建物の中にいる人は逃げる間もない4。 あるマンションはパンケーキクラッシュが発生したと思われ完全に崩壊しているものの、隣接するマンションはそれほどのダメージを受けていないケースもあり、これは建物そのものに原因があると考えられる。 トルコでは2018年に建築基準法が改定され(2019年1月より執行)、地震対策が強化されたはずであった5。しかし、当局の監視が緩いために建築に際して強度の不十分な細い柱や、大量の水を混ぜた質の悪いコンクリートが使用されていることも多いことが明らかになっている6。 さらに、居住者が建物を支える柱を切断する(kolon kesme)行為が広く横行しており、特に1階に店舗が入っている建物では、店舗の所有者がスペースを確保するために柱を切断することが一般的であり、安全性に影響があると指摘されてきた7。 今回、ガジアンテップで倒壊した建物の柱を切断していたとして、2人が逮捕されたほか、当局は崩壊した建物に関わった建築業者など131人を過失の疑いで拘束・逮捕している。このうち海外へ向かおうとして空港で身柄を拘束された人物もおり、自らの責任を理解していた上で海外へ逃亡しようとしたとみられる8。 現エルドアン政権(2002年~)が高い支持率を維持してきたのは経済成長によるところが大きく、建築ブームは現政権初期の経済成長の原動力にもなっていた。不動産セクターの事業者数も増加し、10年間で43%増加、2020年で127,000社に達している9。 2018年の大統領および議会選挙の直前、現政権は建築基準法に違反していても罰金を支払えば法への準拠が免除される、というプログラムを発表していた。このプログラムの一環として建築基準法の担当機関が調査したところ、トルコの全建物の半分以上が基準に達しておらず、違反は無許可で建てられた住宅、無許可で床を増築した建物、バルコニーを拡張した建物、貧困層の不法占拠住居など多岐にわたっていた10。 政府がこうした抜け道を用意していれば、悪質な業者や基準の遵守が難しい個人は抜け道を利用するだろう。またブームの恩恵にあずかった建築業界・不動産業界と政権が癒着していたこともありえる。この結果、安全性の低い建築物が放置され、新築であっても基準に達していない違法な建築物が増え、今回の甚大な被害がもたらされたといえよう。 野党は政権が20年にわたり地震対策を怠ってきたとして責任を追及しており、2023年5月に控える大統領選挙を前に、エルドアン大統領は苦しい立場に追い込まれつつある。
(以上)
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