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中東イスラム世界 社会統合研究会 中東和平

アゼルバイジャン・アルメニアの衝突
をめぐるトルコとフランスの対立

令和2年(2020) 10月
新井 春美




 本年7月に発生したアゼルバイジャンとアルメニアの衝突は9月末から本格的な戦闘へとエスカレートし民間人を含め多数の犠牲が出ているが、さまざまな憶測、数字が飛び交い実態は不明である。

 今回の衝突の原因となったナゴルノ・カラバフ地域の帰属をめぐるアゼルバイジャンとアルメニアの対立の歴史は長いが、ソ連邦が成立すると両国ともにその構成国となり同地域はアゼルバイジャンの帰属と決定された。ソ連末期の1988年になると多数を占めるキリスト教徒のアルメニア系住民が、ムスリムが多数を占めるアゼルバイジャンからの離脱を要求し武力闘争を開始した。これにアルメニアが介入しアルメニアが同地域を実効支配することとなった。ソ連崩壊ののち1994年5月にロシア、OSCE(欧州安全保障協力機構)のミンスク・グループの仲介によって停戦し和平への道が模索されるようになったが解決には至っておらず、2016年4月にも軍事衝突が発生していた。

 アゼルバイジャンは言語、民族がトルコと近いことから両国は伝統的に良好な関係を維持しており、トルコから多額の軍事、経済支援も寄せられている。今回の衝突ではトルコのエルドアン大統領がアゼルバイジャンの支持を表明している。また報道によれば、アゼルバイジャンにトルコが強力な軍事支援を行なっておりトルコのドローンが導入されたほか、トルコの戦闘機がアルメニア機を撃墜しているとされる(アゼルバイジャン側はこれを否定しアルメニア機は山中に墜落したと発表)。

 他方アルメニアはいわゆる「アルメニア人虐殺問題* 」を主張し、トルコへの敵対的な姿勢を続けてきた。フランス国内ではアルメニアロビーが活発に活動していることもあり、フランはトルコに対する「虐殺」非難決議を更新し続けている。

 フランスはミンスク・グループの共同議長として、ナゴルノ=カラバフ問題に関心を寄せるのは当然かもしれないが、それ以上にマクロン大統領の域外問題への積極姿勢が目立つ。東地中海やエーゲ海(「アラブの春」以降混乱の続くリビア、ギリシャとトルコが後ろ盾となり分裂が続くキプロス島周辺のエネルギー権益をめぐる対立がある)においてフランスはトルコとの対決姿勢を鮮明にしており、今回もトルコへの牽制が最も優先事項であるかのようだ。フランスはトルコが過激派戦闘員を送り込んでいると強く批判し、トルコはフランスをはじめミンスク・グループが問題を放置してきたと応酬している。

 アゼルバイジャン、アルメニア双方と関係を維持するロシアが停戦を呼びかけており、アルメニアが停戦に応じる姿勢を見せ始めたが、当事者ではないトルコとフランスの対立は収まりそうにない。



*第一次大戦末期にオスマン帝国領内で、アルメニア系住民が組織的に大量殺害されたという主張。この主張の根拠には不明点も多い。詳しくは佐原徹哉『中東民族問題の起源』(白水社,2014年)。


(以上)




















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