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現地ルポ:歓喜のイスラエルと諦めのパレスチナ、聖なる土地の光と影
(米国大使館のエルサレム移転と、抗議デモ)

平成30年(2018) 5月16日
執筆・撮影:本田圭



 久々に青空が姿を見せた2018年5月14日の午後、至る所に米国とイスラエルの国旗がはためくエルサレムで、米国大使館移転式典が催された。「今からちょうど70年前、ハリー・トゥルーマン大領領の下、米国はイスラエルを国として認めた最初の国となった。そして、我々は、今日、公式に米国大使館をエルサレムに設置する。おめでとう。待ちに待った日が来た」。大画面で流されるトランプ大統領のメッセージに、前列に並ぶ米大統領上級顧問であり、トランプ大統領の娘でもあるイヴァンカ・トランプ氏、夫ジャレッド・クシュナー氏、そしてベンヤミン・ネタニヤフ・イスラエル首相が満面の笑みで拍手を送る。


 今年は「エルサレムの日」、そして「米国大使館移転日」、さらには、ダヴィッド・ベン=グリオンが独立宣言した「イスラエル建国記念日」、そのイスラエルの独立を認めないアラブの連合軍の侵攻に始まる第一次中東戦争、その敗北より70万人ものパレスチナ人が故郷を追われた「ナクバ(大厄災)」の日がほぼ見事に重なった。人口約200万人の6割以上が難民であるガザ地区では、追われた土地への帰還を求め、3月末から大行進が行われ、初日から17人が死亡するなど、既に事態が悪化する土壌ができていたように思う。今回の件を合わせて3月末以降、死者数は100人に上っている。

 トランプ大統領が、昨年12月、エルサレムをイスラエルの首都と認め、テルアビブの米国大使館をエルサレムに移転すると宣言してから僅か5か月後の5月14日、エルサレムはこの日を迎えた。そして、この前日13日は、1948年の第一次中東戦争で西エルサレムを獲得したイスラエルが、1967年の第三次中東戦争で東エルサレムを占領、イスラエル的に言うと「再統合」し「永久不可分の首都」を取り戻したことを祝う「エルサレムの日」であった。一部のイスラエル人は花火を上げて祝い、また旧市街では毎年その「勝利」を見せ付けるようにイスラエルの旗を掲げ、毎年アラブ人地区を行進するのである。エルサレムの帰属を巡っては、問題が複雑化しているものの、実際はイスラエルが実効支


撮影:本田圭

 イスラエル軍の過剰な攻撃により、デモに参加した人々が多数死傷した事態を受け、南アフリカは抗議の姿勢を示すため、駐イスラエルの自国大使の召還を決定。またトルコ政府は、トルコ駐在のイスラエル大使に対し、一時帰国を要請。そして駐イスラエル・トルコ大使も召還予定であるという。またベルギーやアイルランドも、イスラエル大使を呼び出し、抗議の意を示し、フランスやドイツ、エジプトやアラブ連盟もイスラエルの過剰な対応を非難している。アラブ諸国を代表したクウェートの要請により15日に開催された国連安全保障理事会の緊急会合で、米国のヘイリー国連大使は、デモはハマスが煽っているものとし、「ハマスは(犠牲者が続出した)昨日の出来事を喜んでいる」、「安保理の中

配しているのが現実である。国際連合などは、イスラエルが主張するイスラエルの首都としてのエルサレムを認めていないため、米国を含む各国は大使館をテルアビブに置いてきた。そして米国の歴代大統領も「エルサレムの帰属はイスラエルとパレスチナの和平交渉で決める」という中東和平プロセスの正直な仲介者としてのスタンスをとり続けて来ていたが、それを突如打ち破ったのが、今回のトランプの決定であった。

 そのような中で、実施された米国大使館の移転事業。喜びに涙を流すユダヤ人が散見される祝福ムードで一杯の会場の外では、移転に反対する人々が集まり、抗議の声を上げていた。時を同じくして、東エルサレムを首都とした国家建設を目指すパレスチナの各地では、抗議デモが行われ、それに伴いイスラエル軍との衝突が散発した。特に、ガザ地区での被害は大きく、パレスチナ保健庁によると、この1日だけで、デモに参加したおよそ1万人のうち、約60人がイスラエル軍の攻撃により死に至り、2,700人が負傷したと言う。イスラエル側はドローンを飛ばして、催涙ガスを撒き、イスラエルとガザの間に設置されているフェンスに近づく者には容赦なく発砲した。またガザの人々は、狙撃から身を守る目くらましために、タイヤを燃やし、また火炎瓶を投げ境界線の外に火を燃え移らせるなど、その光景はまさに、昨年12月トランプのエルサレムの帰属に関する宣言に対し、ヨルダンのモマニ・メディア担当相が懸念を示した「イスラム教の国やアラブ諸国の道中が炎上するであろう」という言葉通りであった。


で、イスラエルほどの自制心をもって行動できた国はないだろう」なとど述べ、ハマスの責任に言及、イスラエルを擁護する発言したものの、フランスは「イスラエル軍の市民に対する暴力を非難する」と述べ、またオランダは「武力を使ったイスラエルの対応に深刻な疑問を覚える」とイスラエルを非難するなど、大半の国がイスラエルの対応に対する懸念を表明した。

 ただ、私がパレスチナ人と話している中で感じることは、当人たちは、国際社会の関心が集まることを願いながらも、これまでの経緯から、国際社会からの支援に対して、あまり期待をしておらず、またパレスチナ人がイスラエル軍に向かっていく限界も認識しており、また自国政府、アラブ諸国がパレスチナが置かれている事態を改善してくれるとも思っていないのではないか、ということである。つまり無力感、諦めの感情をひしひしと感じるのだ。

 次回は、続きとして、デモを実施しつつも、そこはかとなくパレスチナ社会に広がる諦観について、書こうと思う。

(以上)




















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