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イランと中国の25年間の戦略的パートナーシップ締結

2021年3月
八木正典



 王毅中国外相は中東歴訪6か国の外遊の3番目の訪問国として、イランを訪問した。王毅外相は、サウジ、トルコ訪問を終え、イランのあと、UAE、バーレーン、オマーンを訪問する。王毅外相は、3月27日に、イラン・中国外交関係樹立50周年記念式典に出席したほか、今後25年にわたる戦略パートナーシップに署名した。合意文章は公表されていないが、ニューヨークタイムズなどによれば、昨年報道されたドラフトとほとんど相違がない趣き。
(プレスTV解説)https://www.presstv.com/73e4bd85-e07c-407b-a9b9-14e7289a691a

(関連報道)
  2020年7月5日、ザリーフ・イラン外相は中国との戦略的パートナーシップ交渉は「秘密ではない」と発表した。外相は、さまざまな分野への投資に関して、「確信を持って、中国と25年間の戦略的合意を交渉している、北京との進行中の交渉には何も秘密はなく、合意達成次第、公表される、と述べていた。
  中国外相のイラン訪問は、イランが中国との間の協定案の最終草案を承認したことをうけて行われることになった。イラン政府のスポークスマン、アリー・ラビエイ氏は、政府は直近の閣議で、イランと中国の間の25年間の包括的協力協定の最終草案を承認したと述べていた。

(コメント)
 イランは、米国と貿易戦争を戦い、また、米国の人権批判や内政干渉を行っていると反発する中国や、世界の金融支配を通じて他国の取引を管理し、中国同様米国の人権批判に反発するロシアに、米国が支配する金融システム外での取引に期待をかけている。たとえば、自国通貨やドル以外の通貨バスケットによる取引の推進である。中でも、中国とは、25年間のイラン・中国戦略的パートナーシップを結ぶ協議を昨年来続けてきた。

(戦略的パートナーシップについて)
 パートナーシップ合意文自体は発表されていないが、ドラフト段階の主要点は次のとおり。
1. イラン政府は、中国との間で総額4千億ドル相当の25年間の経済・安全保障の戦略的パートナーシップ合意の締結する(発効には議会承認が必要)。
2.合意の柱
中国が、イランの石油、ガス、石油化学セクターの開発に2800億ドルを投資(当初5年間。のち追加投資ありうる)。
中国が、イランの輸送、製造インフラ整備のために1200億ドルを投資(当初5年間。のち追加投資ありうる)。
3.合意のメリットとデメリット
イラン
メリット
 米国の経済制裁に対する防波堤が確保できる。
 米国がイラン核合意への復帰に二の足を踏んでいれば、イランは、中国との結びつきを一層強め、核合意なし(すなわち、経済制裁の解除なし)でも国民経済を維持することができるとのメッセージを内外に発信することになる。
懸案のサウス・パース・ガス田の開発が加速される。
中国が、北アサデガンや西カロン油田からの原油生産量を2020年末までに50万b/d増やす。また、イラクと共有している西カロン油田の原油回収率を現在の5%から2021年末までに25%に増やすこと、ならびに中国が、イラン産原油の輸入量を米国の制裁にもかかわらず増やす。
中国の治安部隊5千名がインフラ防衛のため駐屯することによって米軍あるいは、イランにとっての潜在的な敵対国に対する抑止力となる。
デメリット
中国にイラン経済の根幹部分を全面的に依存することになる。
仮に米国の経済制裁が緩和されても、欧米企業がイラン進出に慎重になる可能性がある。

中国
メリット
イランを巻き込むことで、中国の一対一路構想実現に向けての強力な足がかりを得ることになる。
石油・ガス田開発、石化プロジェクトにおいて、中国企業は優先買取権を付与される。
イラン国内の中国プロジェクトを保護する目的で、5千人規模の治安要員がイラン国内に駐屯する。また、石油、ガス、石化製品の輸送のため、必要があれば、追加治安要員が派遣され、イラン国内に中国権益確保の要員を駐屯させる口実ができた。
中国は、すべてのイラン産石油、ガス、石化製品を過去6か月のベンチマーク平均価格から12%割引で購入できる。さらにリスク調整割引、為替変動割引を利用すれば、最大32%割引で購入可能。
中国は、イラン産品・製品の支払いを最大2年間猶予される。
中国は、必要に応じ、支払いを人民元またはソフト通貨(アフリカの通貨や、旧ソ連圏の通貨)で支払うことが可能になる。
中国は、イラン国内で、安価な労働力を利用して、中国国内と同じ仕様、運用で、中国の大手製造企業が設計、管理する工場建設が可能になる。
中国は、イラン国内の鉄道プロジェクトにも関与しており、テヘランとマシュハドを結ぶ900kmの鉄道の電化事業の契約を結んでいる。さらに、テヘラン・コム・イスファハンを結ぶ高速鉄道にも関与する可能性がある。この鉄道網をタブリーズを経由して、延長する計画がある。
デメリット
イランとの関係強化で、中国の人権問題への対応や貿易面で対立が生じている米国との関係が一層悪化する可能性がある。
イランの域内での影響力拡大を懸念するサウジやUAEの不安に対処する必要が生じる(但し、王毅中国外相は、サウジ、UAEも訪問しており、両国と直ちに緊張関係が拡大することはない。また、サウジは、米国の人権批判にさらされており、米国の対応如何によっては中国との関係強化をちらつかせることができるので、イランを理由に中国との関係を悪化させることは当面考えていないとみられる)


https://www.presstv.com/Detail/2021/03/26/648124/China-foreign-minister
https://www.presstv.com/Detail/2021/03/27/648172/Rouhani-Wang-Yi-Iran-China-cooperation-US-terrorism-JCPOA-coronavirus
https://www.presstv.com/Detail/2021/03/27/648176/Iran-China-dashed-US-bid-to-isolate-Tehran
https://newseu.cgtn.com/news/2021-03-28/China-wants-to-broaden-ties-with-Middle-East-Wang-Yi-YZ0wQfODbq/index.html

(以上)




















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